日々徒然

古い生活様式

2020年はコロナ禍の今までにない状況で新しい生活様式になりました。

2021年も早々に再び緊急事態宣言となり先の見えない生活の幕開けとなりました。

そもそも新しい生活様式とはどんな様式なのでしょうか?

新しい生活様式」を検索すると、外出時はマスクをつけ、手洗い、うがい、消毒をこまめにし、大声出さずに話をし、部屋の中はこまめに換気をするというようなことが言われていますが、「新しい生活様式」は家族のあり方や心の持ち方にも大きな変化を与えたように思います。

ここでは「新しい生活様式」とは反対の昔からの考え「古い生活様式」として、私の趣味の茶道から掛け軸の意味について少しお話します。

 

掛け軸は茶室に入るとまず目に入りますが、それはお茶を点てる主人がおもてなしの心として季節を表現したり、迎える人が見て楽しむもの考えるものを飾ります。多くは禅語でその奥深さに心を打たれるのですが、私などは殺伐とした余裕のない日常に改めて気づかされることが多いものです。よくあるのが「一期一会」や「日々是好日」などですが、今日はお茶席でよく使われる言葉を3つご紹介します。

● 円相  

円相は、空・風・火・地を含む世界の全体、究極の姿をあらわしています。

円は欠けることも余すところもなく、始まりもなければ終わりもない、無限の宇宙です。

これを見た時、この円がどのように見えるでしょうか?

見る人の気持ちやその境遇によって力強く見えたり、不安定な気持ちになったりするかもしれません。見る人の心をうつしだす円。

「円窓」と書いて「己の心をうつす窓」という意味で用いられることもあり、解釈は見る人に任されるもので究極のお題のようです

茶室に文字でもないこの掛け軸がかかっているだけで不思議な感覚になるものです。私ははじめてこの掛け軸を拝見した時、へーと不思議な感覚をいだいたのは、軸は書か水墨画であると決め付けている自分の狭さを感じたものです。

● 喫茶去

お茶室では時々見かけるお軸の言葉です。そのまま読むと、お茶飲んで去れ、ともとれますが、平たく言うと「お茶でも飲みなされ」から「お茶でも飲みませんか」という意味なのです。禅宗の世界では新参古参問わず修行の上では変わらない。茶道では相手によって差別があってはならない、茶室では地位や肩書きを捨て平等に接します。茶室の躙口が小さいのは、頭を下げて入るための作りだからです。

日常の暮らしにおいても相手によって態度を変えたりすることなくお茶を飲む。これは日常のあらゆることに共通する心構えでしょう。このような言葉から学ばなければならない古い生活様式の良さを感じます。

更上一層楼

こちらは平たく言えば、更に一段向上する,更に一歩前進するという意味。

楼の上から西を望めばあかあかと輝く夕日が沈もうとしている。黄河がはるかかなたの海へ流れこんでいる。このすばらしい眺望に心がひかれ千里のかなたまでもっと見てみたい。もっと遠くまで眺めたい。さらにもう一階上に登ってみると、もっと遠くまで見渡すことができる、という意味です。

物事を広く識るためには、努力して自分が向上する必要がある。努力して自分が向上すれば、まちがいなく広い視野で周りを見渡せることができるという意味です。

 

これらの掛け軸から語りかける言葉は人の心を揺さぶりますし、ふと立ち止まり自分を振り返ることを教えてくれるような気がします。古い生活様式を顧みながら、2021年は穏やかに暮らしたいものです。
(2021年1月25日 ヨコハマNOW投稿)